恋仲

 あれから三日後。
 桂さんから手紙が届いた。
――内密に頼みたいことがあるので、明日、私と会ってはくれないだろうか。
 桂さんが頼みごとなんて、よほど困っているに違いない。翌日、私は指定されたお菓子屋さんの前で桂さんを待っていた。
「やあ。待たせてしまったかな?」
「いいえ。私も今来たところです」
 そのやりとりがなんだかデートのようで、意識したくないのにどきどきと心臓がうるさい。
「なにか困りごとですか?」
 うん、それはこれから説明しよう、そう言って桂さんはお店の中に入っていく。「いらっしゃいませ」お店の人が案内してくれたのは、お店の二階にある一室だった。
 どうしてお菓子屋さんで二階に上がらなきゃいけないんだろう? ちょっと不思議に思っていると、座った桂さんと私の目の前にお茶とお菓子が出された。
「最中……ですか?」
「見た目はね。持ってごらん」
 そう言われて、その最中に手を出した。しゃらん、と軽やかな音がする。それに、すごく軽い。
 戸惑う私に、桂さんが嬉しそうに笑った。桂さんもその最中を手にして、真ん中から綺麗に割った。私も、同じように割ってみる。
「わ……!」
 中には色とりどりの金平糖が入っていた。
「すごく可愛いお菓子ですね、桂さん!」
「だろう? でもね、それだけじゃないんだ」
 そう言うと、桂さんは中身を菓子皿の上にそっと出した。金平糖に混ざって、小さな紙切れが入っている。私のものにも、同じような紙片が入っていた。
「……なんでしょう、これ」
 小さく折りたたまれたそれを、そっと開いてみる。書いてあったのは――
「想ひ合う仲……」
「この菓子の名前は、『恋仲』というんだよ」
 桂さんも、紙片を開いてそれを私に見せてくれた。「秘めたる想ひ」そう書いてあった。
「占いのようなものだね。想う人の前で、この菓子を食べる。ふたりの仲を教えてくれる――」
 かあっ、と一気に血が顔に上るのが分かった。「秘めたる想ひ」と「想ひ合う仲」……私と、桂さん、が?
 うまく息ができなくて、何か言おうとしても言葉にならない。桂さんが金平糖をひとつまみして、私の口にそれを押し込んだ。
「……!」
「……美味しいかい?」
 私の顔は今、とんでもなく赤いに違いない。ぶんぶんと首を縦に振ることしかできなかった。そんな私を見て、桂さんがにっこりと笑った。
「実はね。ここの店主に、娘さんたちがこぞって買いに来てくれるようなお菓子を考えて欲しいと頼まれていてね」
 口の中の金平糖が、消えてなくなった。
 あ、ああ! そ、そういうこと! だ、だよねっ!
「す、すごいですよ、桂さん! これなら、女の子たちもすごく気に入ると思います!」 
「気に入ってもらえたかな? なにせ、娘さんの気持ちがよく分からなくて」
 桂さんが、苦笑いでちょっと首を傾げる。そうか。桂さんの「頼みごと」って、このことだったんだ。
 私は思わず身を乗り出して、桂さんの手を握って力説してしまっていた。
「女の子って、こういうの大好きなんです! それに、これなら男の人が好きな女の子に渡してもぜんぜんおかしくないですもん。絶対に大丈夫です! もう、すっごく売れてるんじゃないんですか?」
「……売れてないよ」
「え……どうして……」
「まだ売ってないんだ。君の誕生祝いを兼ねて、君が最初のお客さまだよ」
 じっと私の目を見つめる桂さん……はっと気づくと、私、桂さんの手を握ったまま……私も目を逸らせずに、お互いをずっと……見つめあったまま。
「あ……あの……っ」
「これは、ただの占いだけどね。でも、これが真実であればいいと、私は思っているよ」
 そう言って、桂さんは空いている方の手に持っていたものを、私の手の中にそっと押し込んだ。
 それは、さっきの紙片。「秘めたる想い」と「想ひ合う仲」――
「ねえ」
「は、はいっ!」
 思わず裏返ってしまった声に、桂さんがくすくすと笑う。そして、急に真剣な目で私を見た。
「君がこの菓子を気に入ってくれたのはとても嬉しいんだけれども。でも、約束してくれるかい? 私以外の誰かからこの菓子を貰ったり、他の誰かと一緒に食べないと――」
 桂さんが余りにも真っ直ぐに私を見るものだから――私は思わず、はい、と頷いていた。
「いい子だね」
 ぐいっ、と引き寄せられ、握った手のまま、桂さんが私の手の甲にそっと唇を寄せた。
「君が私の目の前に居ることに、私は感謝しなければいけないね」
 上目遣いに私を見て微笑む桂さんに、私の方こそ、ここに存在することに感謝しなければ、と思った。
「今日、この日に。――誕生日、おめでとう」

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秋海棠 界 

KAI SHUKAIDO

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Twitter:kai_shukaido

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